僕の話を聞いてくれ。



余命30分。

医学はここ30年ほどで驚異的な発達を遂げ、

分単位で余命がわかるようになった。

どうしても助からない場合、本人の強い希望があれば教えてくれる。

僕は知っておきたかった。

色々としたい事があったからだ。





何か先天性の病気にかかっていたらしく、

僕の体はものすごい速さで衰弱していった。

17歳にして体の年齢は80歳を越え、

車イスなしじゃまともに歩けもしない。

病気の名前は忘れた。何かよくわからない漢字がたくさん使われていた。

どうでもよかった。

ただ生きたかった。

やりたい事がたくさんあった。





人並みに恋もしてみたかった。

SEXも経験がない。

僕は顔も体もしわだらけだし、筋肉も未発達でガリガリだ。

色んな病気にもなりやすくて学校なんかほとんどいけなかった。

それでも僕は普通の中学生、高校生が経験する

「青春」というものはある程度知っていた。

だからこそ恋を経験しておきたかった。

色々な事を経験したかった。

それできっと自分を変えられると信じていた。





僕は今とある山のてっぺんにいる。

僕の行ってた小学校の裏にある、小さな山。

母さんに車イスを押してもらってここまできた。

昔からここは好きだった。

時期的にかなり寒い時期ではあったけど、

それすら嫌いじゃなかった。

山の上から街全体が見える。

あの汚いビルも、排気ガス臭い国道も、

ここから見るときれいに見える。

大きいはずだった色んなものが小さく混ざり合って

ひとつの大きな模様になる。

風が結構強い。

後ろにいる母さんも寒そうだ。

さっきから母さんが僕に何か話しかけてるけど、

耳が遠くてよく聞こえやしない。

補聴器があれば聞こえるんだろうけど、

今日はつけてない。こういう時ぐらいつけないでいたかったからだ。

ただ母さんが泣いてるのだけはわかった。

それは僕がわかってやらなきゃいけない事だからだ。





ビートルズのライブに行きたかった。

叶わない夢だけど。

父さんがよく、クラシックCDをかけてくれた。

もうCDを再生する機械なんてほとんど残ってない。

けど僕はCDの音が好きだった。

ビートルズが好きだった。あれを生で聴いてみたかった。

学校にも行きたかった。

近所に住んでる友達と、一緒に通学してみたかった。

そこでケンカなんかして、大泣きしてみたかった。

映画をもっとたくさん見たかった。

邦画も洋画もたくさん見てきたけど、

まだまだたりない。

「ギルバート・グレイプ」が好きだった。あれはいい映画だ。

夢を見たかった。

人生に終わりなんかないって、信じていたかった。

信じたかった。





みんな生まれた時から死ぬ事が決まってる。

ただ僕はそれが早かった。

それだけで色んな人に色んな目で見られた。

体のサイズは子供で見た目は老人さ。だけど何がおかしいんだ。

やりたい事の半分もできなかった。

そんな僕がおかしいか。

髪型で遊ぶこともできない。学校にもまともに行けない。

友達もほとんどいない。満足に食事もできない。

恋を探すことすら許されなかった。

かわいそうなんて目で見るのはやめてほしい。

僕にとってそれは最大の侮辱であるということを

よく理解してもらいたい。





余命10分。

17年間住んできた街ともさよなら。

たいした思い出もなかったけど、それも悪くない。

家族には迷惑をかけたと思う。

気が狂いそうになった事もあったと思う。

何度も後悔したと思う。

何度も泣いたと思う。

だけど母さんはそんな事は顔にも出さなかった。

僕はそんな母さんが好きだ。

それが全てだった。

それが全てだった。





僕が今いる位置、ここの目の前は崖だ。

だからこそ街がきれいに見える。

高いところは別に嫌いじゃなかった。

怖くもなかった。

母さんはさっきからずっと泣いてる。

僕も泣きたかったけど、不思議と涙は出ない。

おかしいぐらい落ち着いてる。

こんなに穏やかな気持ちになるのも久しぶりだ。

余命5分。

もう母さんともお別れだ。

さよなら。この街。色んな人。僕の夢。僕の恋。



母さんが僕の車イスを崖のほうへ押した。

死ぬ時ぐらい、僕の意志が通されてもいいと思った。


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