僕の話を聞いてくれ





日差しの強い、寒い12月の昼だった。

あいつはまた屋上にいた。今日も体操座りだった。


「寒いな。」

『んー。・・・寒い。』


あいつは別段寒いふうでもなく言った。

名前もクラスも知らない。もちろん学年も。

この学校の男子生徒だという事以外はまったくわからない。

不思議なことに、この屋上以外で見かけたこともない。


「テストは?」

『受けてないよ。今日休んでることになってるのに。』


鼻で笑うように言った。


「・・・誰かに会ったらなんて言うの?」

『ふふん。俺は忍者だからな。』


あいつは立ち上がって、

そのへんをつま先走りでくるくると走り回った。


『人に会わないコツがあるんだよ。』

「何?どうやんの?」

『・・・ヒミツ。』


ニヤリと笑ってまた座り込んだ。

出会いはいつだったろうか。

まだ暑かった気がする。課題考査が終わってすぐぐらい。

あの時もこうやって話した。

座ってるあいつと、立ってる僕。

柵の前のあいつと、ドアのそばの僕。

いつも変わらない。


「・・・ここ立入禁止ですよ。」

『笑えるね。それ。』


敬語はいつから消えたのだろうか。

僕はあの日何をしに屋上へ上がったのだろうか。

遠い夏の日。変わらない場所。


「高校出たらどうすんの?」


僕もあいつの隣に座り込んだ。

こうしてると不思議と寒いと感じなくなる。気がする。


『・・・ ・・・あのさ。』

「ん?」

『テストって50分あんじゃん。』

「・・・ん。だね。」


あいつはそばにあった小さな石を

いくつかつかんで空に投げた。

小さな石はいくつも打ち上げられて、いくつも消えた。


『俺は勉強してないからあれだけどさ。

 受けるとしたらやっぱ50分は本気でさ、やるわけじゃん。』

「そうだね。」

『50分かけて、10問なら10問がんばって解いて、出すって事はよ、

 俺の50分間がさ、詰まってるわけよ。』

「ん・・・だな。」

『それがたった10個の○じゃ我慢できんのよ。』


深いため息を吐いて言った。


「やればできるみたいな言い方だな。」

『×が10個も嫌だなー。』


そう言って頭の後ろで腕を組んで寝転んだ。

そうして精一杯背伸びをして、

もう一度頭の後ろで手を組んだ。





日差しの強い、寒い12月の昼。

授業の開始を告げるチャイムが静かに鳴り響いた。









それからしばらくして、

1個下の稲沢、ってやつが学校を辞めたらしいと聞いた。

それからあいつに会う事もなかったし、

屋上に行く事もなかった。

そうして僕は卒業して、インターネット関係の会社に就職した。

もうあれから2年になる。えらく昔のような気がする。

階段を登りきった先にある、二人だけの屋上。

高い空。低い柵。冷たいコンクリート。

僕とあいつの、遠い夏の思い出だった。




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