私の話を聞いて欲しい。
いつかと同じ気温、湿度、ゆるやかな陽の当たり方。
そういう瞬間は今までに何度もあった。
そのたびに私はノブを思い出し、ノブに会いたくなった。
私の家は私とノブが通っていた中学校からとても近く、
またノブの家とも近かったのでよく学校の帰りに私の家で遊んだ。
テレビゲームと大富豪が主な遊びで、
いつもノブの友達と私の友達合わせて4〜5人で遊んだ。
ノブの家は両親が離婚していて父親しかおらず、
ノブは家でのほとんどの時間を弟と過ごしている。
そしてその父親も家に帰ってこない日が多かったので、
必然的にノブは夜出歩くようになり、
つられて私も夜出歩くようになった。
そして当然のようにそこに恋が生まれ、何度も肉欲に溺れた。
それでも私は真面目な生徒だった。
中学時代に問題を起こしたことはほとんどなく、
成績も中の上ぐらいだったので、あっさり推薦で高校に入学した。
ノブもノブでなんとか私立の高校に入学し、
1年間はがんばったものの2年生になってからはほとんど顔を出さず、
今でも在籍こそしているものの実際退学したようなものだった。
高校2年生の冬。
みんな真面目に進路を考えている中、
私はいつまでも宙ぶらりんだった。
ノブは今働いている建築会社に就職するつもりだと言っていた。
学校もこの2月できっぱり辞めるそうだ。
一度肉体関係を持った男女は、
決してそれ以前の関係に戻ることはない。
いつでも相手の体の形を想像できるし、その熱を感じることができる。
それは別の恋人ができても変わらなかった。
私はいつだってノブを忘れなかったし、
忘れられる事もないと知っていた。
それでもお互い好きな人はできるし、付き合いもする。
私とノブは恋人ではないが、ただの「過去」でもない。
赤い絵の具をいくら水で薄めても、絵の具はその赤を失うことはない。
ただ薄く、淡く、永遠に広がり続けるだけなのだ。
いつかと同じ気温、湿度、ゆるやかな陽の当たり方。
夕陽は空を赤紫色に染めた。
小さな幸せを感じて、私は少し笑った。
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