僕の話を聞いてくれ。





とあるマンションのとある廊下。そこで彼女に出会った。

というよりも見かけただけなのだけれど。

新築のこのマンションによく合う、こぎれいな感じのひとだった。

週に何度か顔を合わす程度で、特別話をするわけでもなかったが、

お互いなんとなく気にかけていたのは明らかで、

それはこの後の展開にも現れている。

初めて話をしたのはライブハウス。

その日は僕の好きなバンドのライブだった。彼女もそこにいた。

ライブが終わったところで僕から話しかけた。


”同じマンションですよね、ええよく会いますね、

ライブとかよく来るんですか、たまにですけど・・・”


なんでもない会話だったが、

この場に彼氏でもいようものなら殴られても仕方がない状況だった。

口説いていたといわれればそれまでだったし、

事実その日は二人で歩いて帰った。

いくつかの街灯とコンビニの灯りだけが続く、2車線の田舎道。

とりとめもない話をして、ただ意味もなく笑った。

このまま暗がりに消えてしまっても、いいと思った。



気がつくと彼女の部屋の前にいた。

「おやすみ」と言って扉を閉める彼女。

ふと自分の手元に目をやると

携帯電話に見知らぬ番号が表示されていた。彼女のだった。

それから僕らは会うたびに世間話をし、

月に何度かは出かけたりもした。

僕は彼女のことが好きで、当然彼女もそうだと信じきっていた。

実際僕は幸せだったし、疑う余地もなかった。

そうして3ヶ月ほどそんな楽しい関係は続き、

そしてある日突然崩れることになる。

彼氏がいたのだ。





それに気づいたのは5日前、

廊下で出かけようとしている彼女に会ったときだ。


”どこへ?彼氏のとこ。”


そう言って彼女は笑顔で出かけていった。

それだけだった。

それだけで僕は全てを悟り、

瞬時に恥ずかしい気持ちと後悔の念でいっぱいになった。

世界が渦に呑まれたと思った。

彼女がそこから抜けたことで世界に穴があいたのだ。

世界は、少なくとも僕はその穴に呑まれた。

渦を作りながら、穴の向こうに消えた。

僕はバカな男でしかなかった。



3日たっても、4日たっても僕の中で渦は消えなかった。

なぜ。なぜ。なぜ気づかなかった。

彼女は僕のことを浮気相手だとすら思ってなかった。

ただの友達。それ以上でもそれ以下でもなかった。

全ては僕の勘違いだったのだ。

全ては。

5日目の朝に、僕は彼女に電話した。


”もう会うのはやめよう”


そうして彼女の番号を消した。もう会わないだろうとぼんやり思った。

自分の小ささに心底泣きたくなったが、

泣けるほどの思い出が僕らにはなかった。

全ては僕の、妄想だった。



彼女は今も幸せで、僕は今まで幸せだった。

彼女を責めることだけはどうしてもできなかった。

それだけは、できなかった。



―――バカだなぁ、そう呟いて少し泣いた。


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