僕の話を聞いてくれ。
『もうパソコンやめるから。』
言いたい事だけ彼女に告げた。
『なんで?なんで急に?』
画面にものすごい早さで文字が打ち出される。
チャットに慣れてるだけあるな。
『色々と。』
淡白すぎる返事だが、それ以上は言わなかった。
言うつもりもない。
その気配を察したのか彼女もそれ以上は聞こうとしなかった。
『そう。』
返事とはうらはらに、
納得した様子はまったくなかった。
『メールは?メールぐらいはできるの?』
『いや。パソコン自体もうしないから。』
嘘をつくのがうまくなったな。僕も。
『そう。』
前より少し返事が遅かった。動揺してるのか。
少したってからまた返事。
『いつごろ復活するの?パソコン。』
しつこい女だな。
こんなんだから僕に嫌われるんだ。
この後の会話はもう勢いだったな。
ほとんど間を空けずに返信を繰り返す。
『ワカんない。』
『メール送るから。』
『・・・パソコンやめるって言ってるじゃん。』
『今はそれでもイイの。
いつか復活した時に忘れないで欲しいから。』
『ワカッた。けど返事は返せないよ?』
『ワカッてる。』
『そうか。じゃあ。』
相手の返事を待たずに僕は接続を切った。
聞くとまた長引きそうだから。
パソコンの電源も落として、
そばにあったベッドに寝転んだ。
・・・はぁ。いつからだったかな。
付き合いだしたのが・・・3年前?かな?
結構長く続いたもんだな。
遠距離恋愛ってのはつらいよ。好きな時に会えやしない。
だんだんと気持ちも薄れて・・・こうなった。
月日はヒトを変える。本当に。
こんなくだらない嘘をついてまで連絡を絶とうだなんて。
僕らしくない。
・・・変わったな。僕も。
そんな事を考えながら僕は寝た。
今日から大学も夏休み。
起きたのは昼過ぎだった。少し寝すぎたな。
ねぐせでボサボサになった頭をかきながら洗面所へ向かった。
シャコシャコシャコシャコ・・・・・・
歯を磨きながら鏡を見て思う。
僕も変わった、と。
ひとしきり歯を磨き終え、口の中に溜まった液体を吐き出し、
着替えてリビングへと向かう。
今日もあいかわらずヒマだった。
扇風機にあたりながら麦茶を飲み干し、
ふと。パソコンに目がいった。
あれから本当にパソコンをしてなかった。
パソコンなんて意外と使わないもんだな。
僕は3年分のホコリをはらい、
久しぶりにパソコンに電源を入れた。
ブゥ・・・・・ン・・・。
懐かしい起動音。
3年も前のだから相当古い機種だけど、
今でもちゃんと動くみたいだ。
契約も一応継続してたからネットもできるだろ。
完全に起動したところで昔の彼女の言葉を思い出した。
『メール送るから。』
あれから3年もたった。
やるって言ったら絶対やる女だった。
あの日から何週間かは送ってきてただろうな。
何通ぐらい送ってきてるかな・・・・・・。
メーリングソフトを起動させて、3年ぶりにメールを受信した。
・・・・・・92通?
おいおい結構送ってきてんなぁ。
・・・・・・3年間も受信してなかったんだぞ?
3年も前に送ったメールなんか残ってるハズがない。
そうだよ。受信しなかったメールは3ヶ月前までのしか残らないハズだ。
3ヶ月・・・・・・・・・92日?
このメール日付が昨日だ。
まさか・・・・・・・・・。
件名:ちょうど3年 日時 2002年 ×月××日 0:12
本文:お久しぶり。こっちからするとお久しぶりじゃないんだけど・・・。
まだ復活してないの?いつだったかな。
今日でちょうど3年・・・になるのかな。早いもんだね。
大学楽しい?前から大学だけは行っときたいって言ってたけど
てゆーか結局行けた?まさかまだ浪人してる?(笑
そうそう、昨日ね!うちの犬が―――――――
変わってない。ぜんぜん変わってない。
昔からやるって言ったら絶対やる女だったもんなぁ。
あの日からぜんぜん変わってない。
あの日のまま。話題も、しゃべり方も。
・・・・・・そりゃそうか。
彼女あの後すぐ死んだもんなぁ。・・・ハハ。
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