僕の話を聞いてくれ。





隣町との境にある通称迷いの山の洞窟に宝が眠っている。

そんな噂を聞いた。ただの噂だと思う。

でもそんな噂を信じてその山に登るやつは多かった。

だけどあの山は迷いの森みたいな山で、

同じような木ばかりが生えそろってて、

どこを歩いてきたのかさっぱりわからなくなる上に、

洞窟自体も入り組んでいて、とても狭い。

よく遭難者が出るので常時警察がウロウロしているが、

警察ですらときに迷いかけるほどだ。

不思議と今まで遭難者の死体が見つかった例はないらしいが、

遭難したやつらはみんな

「宝を見つけてくる」と言い残していなくなっている。

そんな山に僕の友人が「登る」と言い出した。



『やめとけ、バカ。戻ってこれなくなるぞ。』

「いや、俺ならやれる。」



そいつは妙な自信家で、実際頭もよかったし運動神経もよかった。

頭のほうは特に抜群で、とにかくキレ者だった。



「なんとしても宝をもって帰るんだ。」

『またなんで。金に困ってるワケでもないだろ。』

「敵討ちだ。」

『敵討ち?』

「うちの親父が消えた。」



知らなかった。

こいつの親父は地味ではあるがかなり腕のたつ板金職人で、

業界では結構有名だったらしい。

厳格な性格で気が短く、

よくこいつの顔に青アザがつけられていたのを覚えている。



「尊敬してたんだ。いい親父だったよ。」

「そうか。知らなかった。』

「ああ、遭難者についてはあまり表沙汰にならないからな。」

『おばさんも悲しんだろう。』

「ああ。会社の人たちも悲しんでたよ。」

『・・・そうか。』

「だから俺が意志を継ぐんだ。」

『やめとけ。またおばさんを泣かせる気か。』

「親父より俺のほうが頭はキレる。親父の決意をフイにはできない。」

『そもそもお前の親父もなんでったって宝探しなんかに。』

「式のためだろうな。」

『式?』

「親父な、結婚式挙げてないんだ。昔貧乏でな。挙げれなかったんだよ。」

『・・・ ・・・ ・・・。』

「その事、ずっと悔やんでたんだ。仕事もバリバリやった。」

『地道にがんばれば・・・』

「板金だけじゃやってけなかったんだ。弟も妹もいる。

 食わしていくだけで精一杯だったんだよ。」



真剣だった。いつにない気迫に少し押された。

こんなに真剣なこいつを見るのは初めてかもしれない。



「式、挙げさせてやりたいんだ。形だけでもいい。

 なんとかして夢をかなえてやりたい。」

『・・・ 行けよ。』

「えっ?」

『戻ってこれなくなっても知らないからな。』

「・・・ ありがとう。」

『いや。』

「この話をしたのはこれを受け取って欲しかったからだ。」

そう言って古ぼけたトンカチを僕に差し出した。

『なんだよこれ。』

「昔親父が俺にくれたんだ。預かっててくれ。」

『・・・ お前本気か。』

「さっきから言ってるだろ。・・・ 必ず帰ってくる。」



そう言ってあいつは帰ってこなかった。







それから何週間か経ったある日、あの洞窟が崩れたという噂を聞いた。

また宝を探しに行ったやつが見つけたらしい。

元々地盤がそんなにしっかりしてたわけでもない。

今までもってたのが不思議なぐらいだった。

あっという間にその噂は町中に広がって、小さなニュースになった。

と同時に、もう遭難者は出ないという安心感と、

何か昔のおもちゃをなくしたような、

なんともいえない喪失感がこの町をおおった。

みんな少しは夢を持っていたのだ。

もしかしたらこの町に宝が眠っているかもしれない、

そんな少しの期待を持って毎日を生きていたのだ。

それからまたしばらくして、もう誰も洞窟の話をしなくなった。

最初は寂しかったが、慣れてくるとなんでもなかった。

みんないつもどおり、平和な日々を送っていた。

ただ、頭の良かったあいつが、

真相にカスリもしなかったとはどうしても思えなくて、

今でもふと考えてしまうのは、

あの洞窟が崩れたのは

あの洞窟の中にあった何かとても重要なものを、

誰かが取ってしまったからじゃないか、ということだ。






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